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「善意」について思うこと

 名古屋に飯田実千代さんという、京都大学で教育心理学を専攻された異色のソプラノ歌手がいます。国際舞台を目指す彼女の美声はリリコと呼ばれる上質のもので、その美貌とあいまって彼女の舞台は華やかさを実感します。

 その彼女が中学生のころ、近所に住んでいた障害をもった子といつも一緒に通学していました。彼女にとっては、そうすることがごく当たり前のこととして、障害をもった友達も何の気兼ねも無く……。二人の様子を見ていた学校の先生は、飯田さんの行為を善行と判断し、地方有力新聞の伝統的な青少年の善行表彰にひそかに推薦しました。

 見事?中部地方の中で数人のひとりに選ばれた彼女は、栄えある賞をいただいたわけですが、その機を境に、彼女の行為は周囲の人たちに特別なこととして見られ、二人の関係も気まずいものになったそうです。飯田さんの善意と先生の善意には、微妙な温度差があったのでしょう。十数年前に小さな胸を痛めた想い出を話してくれた彼女の眼には光るものが見えました。そんな感性の持ち主が歌うアリアだからこそ、心の琴線に触れるのかも知れません。

 私の所属する施設にも大勢のボランティアがやってきます。同時にそうした方々の表彰推薦の機会も増えました。善意の気持ちを大切にするとともに、障害をもつ人たちのプライドも尊重しなければと思う今日このごろです。

発行日:1994年(平成6年)11月15日
掲載誌:「AIGO」第452号に寄せた文章より
発行元:日本知的障害者福祉協会