「いいな、そのおにぎり。僕のごはんと交換してほしいな」…A男が手にしているごく普通のおにぎりをじっと見つめて、学園のヤスオがつぶやきます。農作業のあとの昼ごはんの時のことです。するとその隣のハルコまでが、「そのおにぎりが食べたいなあ」と言うのです。A男の弁当は、おにぎり3つと卵焼きと漬物だけ。学園の子供たちの昼食はホカホカの肉じゃがに焼き魚、フルーツまでついて、とてもおいしそうです。交換しちゃおうかなあと一瞬思いましたが、余計なことをしてはいけないような気もして、結局それぞれ自分のごはんを食べたのです。けれどもA男の心には、なぜヤスオやハルコはこんなおにぎりが食べたいんだろうという疑問が残りました。

 A男は豊橋市内の中学2年生。学校行事の体験学習で学園の子どもたちと一緒に農作業を体験して、いろいろ考えさせられています。学園に来るまでは、障害のある子たちのために自分が何かしてあげられるのではないかと考えていました。でも実際に一緒に活動するうち、学園の子たちは自分とちっともかわらないような気がしてきました。むしろ教えられることが多いように思います。たとえば、手足に少しマヒのあるヤスオはすごいがんばり屋で、決して作業の手を抜きません。何かをやりかけてはたいてい途中であきらめてしまうA男にとって、ヤスオのがんばる姿には特に心を動かされるものがありました。

 A男は、思いきって学園の職員におにぎりのことを聞いてみることにしました。職員の答えはこうでした。「学園の食事はA男君から見るとうらやましいくらいおいしそうだけれど、みんなが一番食べたいのは学園のおいしいおかずじゃなくて、やっぱりお母さんのにぎってくれたおにぎりなんだよ」…母の作ったおにぎりのことをそんなふうに考えたことはありませんでした。それを聞いてあらためて味わってみると、何だかとてもあたたかくて、母の手のぬくもりが伝わってくるようでした。

 家に帰ったA男は、思わず母に「お母さん、おにぎりありがとう」と言いました。ほどなくして、A男の母から学園に電話が入りました。「うちの子が初めて『ありがとう』の言葉を口にしたんです。学園で大切な事を教えていただいたような気がします。」…電話の向こうの声は涙ぐんでいました。
これからもボランティア体験を通じて『大切なこと』が伝えていけるといいなと、みんな思っています。
 

僕には明日の夢がある